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ドラードの印刷画像 ドラードの印刷

活版印刷機(写真提供:天草コレジヨ館) 左の写真はブドウ絞り機を応用した活版印刷機。ドラードはこれと同じ形の印刷機を使い、ゴア・マカオ・加津佐・天草・長崎で、のちにキリシタン版と呼ばれるようになる印刷をしていました。
この数々の本の印刷により、日本でのイエズス会による教育は大きな成果をあげたと言われています。

(写真について)
印刷機・天草版の写真は、天草コレジヨ館から提供していただきました。天草版については、見やすくするため管理人側で多少の加工を施しております。そのため展示物とは異なる点がありますが、あらかじめご了承ください。また、天草コレジヨ館のご好意によりここに載せることができました。画像の持ち帰りはご遠慮ください。

1588(天正16) ゴア  『原マルチノの演説』
15ページの小冊子。ラテン語。マルチノが、ゴアにいたヴァリニャーノに挨拶した時の原稿を印刷。実際の演説もラテン語で行われた。ドラード初めての印刷。

1588(天正16) マカオ 『キリスト教子弟の教育』
弟子が質問、師匠が答えるという対話形式のもの。

1589(天正17) マカオ 『遣欧使節対話録』
ヴァリニャーノの創作。帰国後に、使節らがヨーロッパのことを話して聞かせるという対話形式の形をとっている。

1591(天正19) 加津佐 『サントスの御作業の内抜き書』
日本語/ローマ字。2巻で構成される。1巻700ページを越す大冊。聖人伝を載せ、キリスト教の精神に基づく日常生活の模範書とした。説教中の挿話・教訓用が主な目的。

1591(天正19) 加津佐 『どちりいな・きりしたん』Doctrina christan
この年組版にかかる。日本語/国字。書体は連綿体、仮名は変体仮名。当時の日本人が一般に書写用として使っていた文字と思われる(私は行書のような感じに見える)。

…1592(天正19) 印刷所が天草に移転…

1592(文禄元) 天草  『どちりいな・きりしたん』
『どちりいな・きりしたん』 前年、加津佐で組版にかかっていたものを印刷。基本的な教義の根本を説いた書。これは国字なので日本人信徒用。用語は日本語で典雅な文語体(「もの也」体)。
細かい内容はこちら

1592(文禄元) 天草  『ドチリナ・キリシタン』
『ドチリナ・キリシタン』 日本語/ローマ字。ヨーロッパ人の宣教師用に印刷。日本人用の『どちりいな・きりしたん』とは違い、巻末に「和らげ」が付いている。これは難解な言葉を集め、易しく注解したもの。形式や内容に差はあるが、その後の刊行物にも踏襲されている。

1592(文禄元) 天草  『ヒデスの導師』
日本語/ローマ字。ルイス・デ・グラナダ著。                              

1592(文禄元) 天草  『平家物語』
日本語/ローマ字。日本語の対話体の学習や日本歴史と同時に「武士」の風習、礼節、精神を理解させ、布教の実用に役立たせる目的で刊行された。                                      

1593(文禄2) 天草  『ばうちずもの授けよう』
『ばうちずもの授けよう』 日本語/国字。                                   

1593(文禄2)  天草  『エソボのファブラス』
『エソボのファブラス』 日本語/ローマ字。『伊曽保物語』とも。言葉稽古のための本。イソップ物語を翻訳したもので、日本初の西洋文学の翻訳といえる。口語文体(「おじゃる」体)で書かれており、『サントスの御作業の内抜き書』同様、説教中の挿話・教訓用に用意された。類語の学習もできるように、同じ話の中に数語を載せ、表現が工夫されている。

1593(文禄2) 天草  『金句集』
『ドチリナ・キリシタン』 日本語/ローマ字。宗論を闘わせる時などに引用される。                                   

1594(文禄3)  天草  『アルバレス拉丁(ラテン)文典』
イタリック体の文字を含む最初の刊本。並記する形で日本語文法の一部がある。                                      

1595(文禄4)  天草  『羅葡日対訳辞書』
ラテン語・ポルトガル語・日本語/ローマ字。見出し語のラテン語に対し、ポルトガル語、日本語の対訳がされている。一語のラテン語に対し複数の日本語があげられるなど、主に日本語学習に重点が置かれている。使用している日本語は文語体。

…1595(文禄4) ドラード、イエズス会に入会許される…

1596(慶長元) 天草  『心霊修業』
ラテン語/ローマ字。外国人修道士用のラテン文学。著者はイエズス会創立者イグナチウス・デ・ロヨラ。

1596(慶長元) 天草  『精神修養の提要』
『精神修養の提要』 ラテン語/ローマ字。全てイタリック体活字で印刷。『精神修養綱要』とも呼ばれる。外国人修道士用のラテン文学。スペイン、ブラガの大司教バルトロメウ著。                                  

1596(慶長元) 天草  『コンテムツス・ムンヂ』
日本語/ローマ字。全てイタリック体活字で印刷。                                      

…1597(慶長2) 二十六聖人殉教、印刷所が長崎に移転…

1598(慶長3)  長崎  『落葉集』
日本語/国字。漢字の辞書。字形から検索する「小玉篇」、訓からの「色葉字集」、その漢字が頭につく漢熟語を、音から調べる「本篇」の三部からなる。

1598(慶長3)  長崎  『サルヴァトル・ムンジ』
日本語/国字。告白の手引き書。

1599(慶長4)  長崎  『ぎゃ・ど・ぺかどる』
日本語/国字。ルイス・デ・グラナダ著。

1600(慶長5)  長崎  『ドチリナ・キリシタン』
日本語/ローマ字。1592年刊行の『ドチリナ・キリシタン』の後期版。こちらは禁教、迫害のきざしが見えてきた時期のもので、洗礼について本来の洗礼(水のバウチズモ)の他に望みの洗礼(洗礼を希求しながら機会が得られないまま死亡した場合)、血の洗礼(キリシタンの行いにより処刑された場合)があると述べたりしている。

1600(慶長5)  長崎  『倭漢朗詠集巻の上』
日本語/国字。仏教寺院教育における初歩の教科書として使用。『倭漢朗詠集』は
(一)倭漢朗詠集上巻
(二)九相歌・無常
(三)雑筆抄
(四)実語教
(五)直実状・経盛返状・義経申状
(六)真宗皇帝
など、漢学詩文七篇からなっている。(三)の雑筆抄は鎌倉中期に撰作されたと目される往来物。中世から近世にかけて、習字や詩歌用として盛んに用いられた手本。この往来は、中流以上の武家の、日常生活に即応する百科的知識を短句・短文の形に集録したもの。

1600(慶長5)  後藤登明印刷所 『おらしょの翻訳』
日本語/国字。

1600(慶長5)  後藤登明印刷所 『どちりいな・きりしたん』
日本語/国字。1592年刊行の『どちりいな・きりしたん』の後期版。

1603(慶長8) 長崎  『金言集』
ラテン語/ローマ字。

1604(慶長9) 長崎  『日葡辞書』
日本語・ポルトガル語/ローマ字(前年から2年がかりで仕上げ)。約800ページ、登録語数約32800語。ローマ字本の巻末に付いていた「和らげ」の集大成で、必要に応じて例文を付けてある。説明の中には同義語・対義語の指摘、語性(卑語・方言・文書語・詩歌語・仏法語・女性語など)の注記など、日本語使用にあたって必要な事項を詳しく記述。さらに見出し語(日本語)はローマン体、説明文(ポルトガル語)はイタリック体。両者の違いを有効に利用している。

1604(慶長13) 長崎 『日本大文典』の制作にとりかかる

1605(慶長10) 長崎 『サカラメンタ提要』Manuale ad Sacramenta Ecclesiae Ministranda
ラテン語/ローマ字(墨・赤2色刷り。楽譜入り)。日本の教会用に、当時の日本司教セルケイラが編集。秘跡(儀式によって受ける神の恩寵)や教会暦、ミサ祭式のグレゴリオ聖歌の楽譜を掲載。葬儀のための聖歌と司教の管区教会訪問のための聖歌を中心に、19曲の楽曲が載っている。主文はラテン語だが、中に日本語もまじえている。

…1606(慶長11)  大村喜前、千々石ミゲル棄教 マカオでヴァリニャーノ死去…

1607(慶長12) 長崎  『スピリツアル修行』
日本語/ローマ字。

1608(慶長13) 長崎  『日本大文典』Arte da Lingoa de Iapan
日本語・ラテン語/ローマ字(1604年から5年がかりで仕上げ)。ロドリゲス著。単独の、大成した形で刊行された日本語文法の本。ラテン文典を参考にしながら、広範囲な事象を取り上げている。

1610(慶長15) 長崎  『聖教精華』
ラテン語/ローマ字。外国人修道士用のラテン文学。当時の在日宣教師、マノエル・バレト編。

1610(慶長15) 京都 原田アントニオ印刷所 『こんてむつすむん地』
日本語/国字。キリシタン版の中で唯一、木活字を使用。

1611(慶長16) 長崎  『ひですの経』
日本語/国字。和訳担当は原マルチノ。

1611(慶長16) 長崎  『太平記抜書き』
日本語/国字。当時の荘重な日本語文の最高級の模範。

…1614(慶長19)  ドラード、多数の宣教師や信徒とともにマカオへ追放される…

(2006.07.31更新)  


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