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『どちりいな・きりしたん』 1591-1592 加津佐/天草
『どちりいな・きりしたん』

 具体的にどんな内容なのか気になったので、まとめて載せてみました。


【凡例】
<ポ>=ポルトガル語
<ラ>=ラテン語
★=管理人が、ふと思ったこと(読み飛ばしても何も影響ありません)


●序文
 教義のうち、大事なところを選んで印刷し、迷いを照らす鏡とする。全ての人にこの教えを知らせるために、言葉は一般の人にわかりやすく、さらにすぐ理解できるように師弟の問答体にしている、ということが書かれている。


●第一 どちりいな(教義)
 師匠がおおまかな質問をし、弟子が答えているが、途中で弟子が「細かいことはわからないので教えて下さい」ということになり、師匠が教えていく形をとっている。内容としては、「でうす」は唯一神であること、人間の魂の不滅、「きりしたん」とはどういう人のことか、などが説明される。


●第二 きりしたんのしるしとなる貴きくるす(十字架)の事。
 十字架が大事な理由、きりしたんはどうやって十字架のしるしをするか、そのときに何を唱えるかを説明している。十字架のしるしのやり方は次のとおり2通りある。
1. ぺるしなる(Persignar<ポ> 印す)
 「右の大ゆび」で十字の印を額と、口と、胸にする。そのときには「ぺる しいぬん さんて くるしす で いにみしす なふすちりす りべら なふす でうす なふすてる(Per signum sanctae Crucis de inimicis nostris libera nos Deus noster.)」と唱える。意味は「我等がでうす、さんた-くるすの御しるしを以て我等が敵を逃し給へ」という意味。
2. べんぜる(Benzer<ポ> 祝福する)
 右手で額から胸まで、左の肩から、右の肩まで、大きく十字の印をする。口では「いん なうみね ぱあちりす ゑつ ひいりい ゑつ すぴりつ さんち あめん(In nomine Patris et Filij et Spiritus Sancti, Amen.)」と唱える。意味は「でうす ぱあてれ ひいりよ ゑ すぴりつ さんと の御名を以て」という意味。
 
★この十字のしるしの方法は現在でも、両方使います。1のやり方はミサ中の福音朗読の前に「主に栄光」と言うときに、2のやり方は、ミサの中では「父と子と聖霊のみ名によって」と司祭が言うときにやったり、『どちりいな』でも書かれているように食事の前後や、教会に出入りするとき、また祈りの前後でやったりします。キリシタンがやっていたことを今も変わらずやっているなんて、なんだか面白いですね〜(^^)


●第三 +ぱあてる-なうすてるの事。
 ローマの教会から教えられている祈りと、信じるべき条、心掛けるべき生活態度について説明される。具体的に次のように挙げられている。
・ぱあてる-なうすてる(Pater Noster<ラ> 主祷文(主の祈り))
・あべ-まりあ(Ave Maria<ラ> 天使祝詞(アヴェ・マリアの祈り))
・さるべ-れじな(Salve Regina<ラ> 元后あわれみの母)
・けれど(Credo<ラ> 使徒信条)
・十ヶ条のまだめんとす(Mandamentos<ポ> 十戒)
・さんた-ゑけれじやのまんだめんとす(Sancta Ecclesia/Mandamentos<ポ> 教会の掟)
 この他にも大切なこととして、超自然徳(信・望・愛)が説明されている。
 また、「ぱあてる-なうすてる」の祈りの日本語文と、その内容の細かい説明も載っている。

★「Pater Noster」は、現在でも「主の祈り」として大切にされている祈りで、ミサの中でも唱えます。新約聖書には「マタイによる福音書」6章9節〜13節にあり、山上の説教の中でイエスが語ったこととして出てきます。そのため、「イエスから直接教わった祈り」ということで大切にされています。


●第四 あべ-まりあの事。
 聖母マリアに対する祈り「アヴェ・マリア」について、祈りの日本語文と、誰が作ったものかについて説明されている。また、ロザリオの十五玄義についても触れられている。

★聖歌としても有名で、CMなどにもよく使われる「アヴェ・マリア」ですが、キリシタンたちもよく唱えていたようです。もちろん、現在でも使われています。ロザリオの十五玄義は、聖母マリアの生涯における喜び・悲しみ・栄光を瞑想する信心業で、「アヴェ・マリア」の祈りを1回唱えるごとにロザリオの珠を1つずつ、つまぐっていくというやり方をします。


●第五 さるべ-れじいなの事。
 聖母マリアに対する祈りとして、「アヴェ・マリア」の他に挙げられている。「サルヴェ・レジナ」の祈りの日本語文に加え、聖人に信心をもつべきか、教会が聖人の祝日を祝うのはどういった意味があるのかということについても触れられている。

★「めでたし、元后」という意味の「サルヴェ・レジナ」は、11世紀の記録が最古のもので、聖歌として歌われてきたようです。少し前まではカトリック教会でも歌われていたみたいですが、最近だとあまり聞かないような…??(教会によって独自のカラーがあったりするので、よく使ってるよ!というところもあるかもしれません)


●第六 けれど、ならびにひいですのあるちいごの事。
 「確かに信じ奉る道」として、「けれど(Credo<ラ>)」(使徒信条)と、「ひいです(Fides<ラ> 信仰)のあるちいご(Artigo<ポ> 箇条)」(信仰箇条)を挙げている。
 使徒信条については、十二使徒が聖霊の導きで一カ所に集まり、そのときにイエスから聞いた言葉を書き連ねたもの、と説明され、祈りの日本語文を載せている。
 信仰箇条については、使徒信条の内容について12個に分けて説明しているもので、使徒が12人であるように12ヶ条あるとしている。その12ヶ条について、全て細かく説明され、三位一体や天地創造についても触れられている。

★「使徒信条」は、現在でもよく唱えられる祈りで、洗礼式などでも同じような内容の信仰宣言が唱えられます。内容はイエスの聖誕→受難→死→復活→昇天→最後の審判と、キリスト教の中心的な教えが含まれているので、『どちりいな』も難しい内容になっていて、現代の人間から見てもなかなか勉強になります(^_^;)


●第七 でうすの御掟の十のまんだめんとの事。
 
「十のまんだめんと(Mandamento<ポ> 掟)」=十戒についての説明。ここで挙げられている十戒は「第一 御一体のでうすを敬ひ貴び奉るべし」「第二 貴き御名にかけて、むなしき誓ひすべからず」「第三 どみんご(Domingo<ポ> 主日、日曜日)祝日を勤め、守るべし」「第四 汝の父母に孝行すべし」「第五 人を殺すべからず」「第六 邪淫を犯すべからず」「第七 偸盗(盗み)すべからず」「第八 人に讒言をかくべからず」「第九 他の妻を恋すべからず」「第十 他の宝をみだりに望むべからず」で、その1つ1つについて、細かな説明がされている。

★言わずと知れた、十戒についてです。現在では(当たり前すぎて?)あまり触れられないように感じるのですが、キリシタンたちにはしっかり教えられていたようですね〜(^^)


●第九 御母さんた-ゑけれじやの御掟の事。
 教会の決まりについての説明。ここではとくに次の5ヶ条を挙げ、細かい内容についても説明している。
第一 どみんご・べあと日(Beato<ポ> 聖人、「べあと日」=聖人の祝日)にみいさ(Missa<ラ> ミサ)を拝み奉るべし。
第二 せめて年中に一度、こんひさん(Confissão<ポ> 告解)を申べし。
第三 ぱすくは(Pascoa<ポ> 過越祭)にえうかりすちあ(Eucharistia<ラ・ポ> 聖体の秘跡)のさからめんと(Sacramento<ポ> 秘跡)を授かり奉るべし。
第四 さんた-ゑけれじやより授け玉ふ時、ぜじゆん(Jejum<ポ> 断食)を致し、せすた(Sexta<ラ> 金曜日)・さばど(Sabbado<ポ> 土曜日)に肉食すべからず。
第五 ぢずもす(Dizmos<ポ古> 教会維持費)・ぴりみしあす(Primicias<ポ古> 初穂)を捧ぐべし。

★現代のカトリック教会にも「教会法」というのがあるようですが、一般信者が自分でガリガリ勉強するものではないみたいです(司祭のなかには専門家がいるようですが)。上のような内容は洗礼準備のときに教わったりします。


●第十 七のもるたる科の事。
 「もるたる科」とは、ポルトガル語の「Mortal」を引用している語で、「死にいたる大罪」のこと。全ての罪の根源となる罪は7つあり、それは「驕慢(おごり高ぶること)」「貪欲(欲心)」「邪淫(男女間の不正な情事)」「瞋恚(腹立ち)」「貪食(食をむさぼること)」「嫉妬」「懈怠(怠惰)」で、これが「もるたる科」であるとする。しかし、この7つは事によっては「べにある科(Venial<ポ> 赦されやすい)」、小罪になることもあると説明する。
 罪について説明するだけではなく、罪を犯してしまったら教会に行き、告解をすることを勧めている。

★いや〜、このあたり耳が痛い内容です(^_^;)食いしん坊は罪なんですね〜。罪について教わることはあるものの、現代では「これやったらダメ!」「それは罪!」などときっちり考えることは少ないかもしれません(もちろん、人によりますが)。とりあえず食べ過ぎには気をつけます。◎余談ですが、旧約聖書続編の「シラ書」には「程よく食べれば、安眠が得られ、朝も早く起きられて、気分はさわやかである」なんて書いてあります。気分はさわやか…(笑)この書は結構な毒舌でちょっと面白いです。


●第十一 さんた-ゑけれじやの七のさからめんとの事。
 神の恩寵を表すしるしとして、教会の7つの「さからめんと(Sacramento<ポ> 秘跡)について説明されている。その7つは次のとおり。
1. ばうちずも(Bautismo<ポ古> 洗礼)
2. こんひるまさん(Comfirmação<ポ> 堅信)
3. ゑうかりすちや(Eucharistia<ラ・ポ> 聖体)
4. ぺにてんしや(Penitencia<ポ> 告解)
5. ゑすてれま-うんさん(Estrema Unção<ポ> 終油)
6. おるでん(Ordem<ポ> 叙階)
7. まちりまうによ(Matrimonio<ポ> 婚姻)
 また、この7つの秘跡についての詳しい説明も載せており、洗礼に関しては授ける方法まで書いてある。

★この7つの秘跡は、今でも変わりません。「終油」に関しては呼び方が変わり「病者の塗油」と呼ばれています。「告解」は「ゆるしの秘跡」と呼ばれることもあります。6つめの「叙階」以外は一般信者に関わりがあるもので、まず洗礼を受け、信仰を堅めるという堅信を受け(信者としての成人式みたいなものです)、結婚のときには婚姻の秘跡を受け(ちなみに信者どうしの婚姻でないと秘跡にならないそうです)、ミサなどでキリストの体である聖体を受け、悪いことをしたら告解をしてゆるしの秘跡を受け、病気になったら塗油してもらう(おそらく重い病気のときだと思います、風邪くらいではやらない)というように、秘跡は人生の節目節目に密着しています。


●第十二 此外きりしたんにあたる肝要の条々。

 今までの教理の他に、大事なこととして次のことが挙げられている。
○みぜりこるぢや(Misericordia<ポ> 慈悲)の所作
 飢えている人に食事を与えること、悲しんでいる人を慰めることなど。
○てよろがる(Theologal<ポ古> 神的)のびるつうです(Virtudes<ポ> 徳)
 
信仰・希望・愛のこと
○かるぢなあれす(Cardinales<ラ・ポ> 枢要な)のびるつうです(Virtudes<ポ> 徳)
 賢慮・正義・剛毅・節制の4つ。
○すぴりつ-さんと(Spiritu Santo<ポ古> 聖霊)のだうねす(Dones<ポ> 賜物)
 
上智・聡明・賢慮・剛毅・知識・孝愛・敬畏の7つ。
○べなべんつらんさ(Benaventurança<ポ> 至福)
 
山上の説教の内容と同じ。
○こんひさんのおらしよ(あやまりのおらしよ)
○食する時のべんさん(Benção<ポ> 祝福)(食前・食後のおらしよ)

★慈悲の所作については、高山右近のお父さんなんかがグループを結成し、率先してやっていたという記録をどこかで見ました。右近本人も死者の棺桶をかついだりして民衆を驚かせていたようです。苦境の中で生きる人にとっては、大きな助けになっていたのではないかと思います。


(2013.11.24 更新)



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