ドラードの探検記 フィレンツェの宮殿編

●宮殿とそれをつなぐ回廊について
 我々はこの都市の壁上に作られている遊楽場を見物した。そこには立派な館が2つ(ヴェッキオ宮・ピッティ宮)あり、広場に通じ、4分の1レグアある廊下でつながっている。館を出ると長さ200パッソある他の廊下に入る。この廊下の左方上部にはキリスト教徒・異教徒に関わらず有名な王の肖像画が150ある。その肖像画の下方にはそれぞれ名前が記してある。他方には大理石像がびっしり並べられている。その中には新しいものも古いものもある。
 この廊下の側面にある一館には、古い青銅の器が収められている。世界中のどこにも、こんなにたくさん集められているところはないと思う。この館の収蔵品の珍しさは見るに足るものである。
 この廊下の更に前方には、同じような用途にあてられているいくつもの館があって、その中にはとても優美な大理石像が200以上収められている。
 我々は、この廊下と相対する同じ長さの別の廊下を渡った。この二つの廊下の間には、美しい通路がある。我々が渡った廊下には、両側に粘土製の大鉢に植えられた樹木が並べられている。廊下の末端には、バルコニーがもうけられ、土鉢にあらゆる種類の野菜の種が蒔かれている。ここには2つの噴泉があり、そこから土鉢に水がまかれるようになっている。このバルコニーは地上から5・6ランサ以上の高さで、こんな高いところまで水をくみ上げるのは人智と人力を超えるもののようである。
 この廊下を渡り終え、さらに前方へ進むと、庭園(ボーボリ庭園)に入る。全て四角形に区切られた大きな、美しい森林で、杉・糸杉・月桂樹などの樹木が植え込んであり、中央に通路がある。夜になると、この林に寝に帰ってくる様々な鳥を捕まえることができる。
 この地にある館は、いずれも優れた様式で設計され、できる限り豪華に作られている。それも6階、もしくは7階の大きなものである。ただし、中央の庭に面している部分は3階以上はない。玄関・窓・煙突は全て碧玉で飾られ、内部には多くの巨大な古い彫像がある。
 この地には、大公がときどき休養に赴かれる一別荘がある。絨毯が敷き詰められ、それぞれの部屋には非常に豪華な寝台が置かれている。またいくつもの部屋には碧玉製のテーブルがあり、驚くべき工夫をこらしてあり、極めて優雅に浮き彫りされて、連接されているものである。
 我々はここで24枚の垂れ幕を見た。それは大公がスペインに行かれたときに命じて作らせたもので、金襴製で、その上、一面に金銀の刺繍がされ、中央に大公の紋章がある。非常に豪華で、華麗を極めたもので、一枚1000クルザードを費やしたという。

●宿泊しているヴェッキオ宮殿について
 我々の宿泊する大公の宮殿(ヴェッキオ宮)は大広場(シニョリア広場)にあり、古く、大きい館である。この大広場の中央に迫る館の一角に、大理石の大きな噴水がある。その中心には巨人が一人と四頭の馬の像が立つ。この馬は巨人の大きな身体を、そこから引き抜こうとして泳いでいるように、水上に前足を挙げている。噴水は方形で、四隅の高所に青銅製のニンフが一人ずつ立ち、ニンフの足下には同じ金属製のサテュロスが2体、その両側にある。以上の諸像は皆いたるところから水を出している。
 宮殿の玄関正面には、いくつもの円柱を立てた壮麗な広い車寄せがある。円柱の上にはこの市の何人かの市民の偉勲と、その古い年代を記した青銅の立像がある。宮殿の玄関から10パッソほど離れたところの両側に、円柱がある。この上には巨人が立っており、両方の巨人は共に足下にある他の群像を威嚇し、手に槌を持っている。
 玄関に近く3パッソのところに他の二像がある。一つは男性、もう一つは腕のない女性である。この二像がなぜここにあるのか、我々は聞かなかったが、この二像は太い鎖でつながれ、玄関を遮る役目を果たしていた。
 宮殿の中庭は、この宮殿のわりには小さいが、とても高い位置にあり、全て金めっきが施された8本の太い円柱がそれを支えている。円柱には、頂上まで金製の花や薔薇が飾られている。
 中庭の入り口から入ると、左の方にこの中庭と同じ長さの一区画があって、そこには砲車上にすえられた巨砲が10門ある。周囲の壁には全て手入れの行き届いた武器が30具、かけられている。50挺の火縄銃、50振の槍、同数の鉾もかけられていた。
 中庭を過ぎると、異なる2つの階段を昇る。両方とも会議室の入り口に達する。これは我々が今までに見たなかで最も美しい会議室の一つである。長さは80パッソ、幅は34パッソある。会議室の端から手前に12パッソのところに、階段が7段あり、これを昇ると、正面の壁の中央に礼拝堂がある。その中には、たぐいまれな均衡と美しさをもって大理石で作られた、ある教皇様の像がある。その壁面の右方の隅にも、別の礼拝堂が作られ、そこにも別の教皇様の像がある。その理由は、この大公家の君主たちがこの2人の教皇様のおかげでその敵に圧倒的な勝利をおさめたことを記念するためである。
 会議室の床から天井までは50コワード(150パルモ)ほどの高さだろう。天井は隙間なく見事に金が塗られ、また思わず人目を引きつけるほど優れた古い物語の絵画が所狭しと描かれている。その構図の素晴らしさ、金の豪華さは鑑賞していて飽きることがない。壁面にも、この大公家の君主たちがフィレンツェおよびピサとの間で交えた多くの戦争と、それに勝ち、そこの国々を領土にしていく次第が絵に表されている。



(2014.07.21 作成)


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